すでに米国などでは、老齢期及び老齢化のプロセスを研究するジェロントロジー(老年学)と金融研究とを組み合わせた『金融ジェロントロジー』という考え方が進められています。「健康寿命」だけでなく「資産寿命」も伸長して、それらと「生命寿命」とのギャップをできるだけ縮小するための学際研究です。
金融ジェロントロジーとは、ジェロントロジーと金融が交差する学問領域です。ジェロントロジーは、生物学、医学、保健、介護、教育、心理学、社会学、テクノロジーなど多岐にわたる分野にまたがり、老齢期及び老齢化のプロセスを学際的に捉える学問分野を指します。老齢期が多くの人々にとって人生の長期にわたる部分を占めるようになったこと、人口高齢化と共に社会全体への影響力が増大したことなどが、このようなアプローチの重要性が増す背景にあります。
金融ジェロントロジーは、ジェロントロジーの複数分野にわたる研究に立脚しつつ、資産寿命の問題と、個人及び家族の願望について理解を深めようとしています。資産寿命とは、「資金面の制約なく生活できる期間」としています。可能な限り長期にわたる十分な金融機能の維持をし、金融面の健康と安全の確保が重要となります。
健康寿命は「健康上の問題で制限される事なく日常生活が送れる期間」ですが、その健康寿命と資産寿命を伸ばして、生命寿命と限りなく一致させることが重要になります。健康寿命と資産寿命は相互に関連していて、共に老後の生活の質(QOL)に多大な影響を及ぼします。
資産寿命を伸ばすにあたり、具体的に何が必要になるのでしょうか。これは決まった答えがあるわけではありません。まずは、「どう生きたいか」のライフプランニング(人生設計)と、それを支えるファイナンシャルプランニング(資金計画)が必要です。そして更に、その最後の部分において、心身機能低下により本人だけでは判断がつかない状況に備えることの重要性も増してきています。そのような状況下では、家族や専門家によるサポート、エンゲージメントが必要不可欠になります。円滑にサポートを受けられるように、事前の準備が必要です。例えば、高齢者自身が、金融及び医療関連の重要情報を整理しておき、自分が意思決定を下せなくなった場合に、誰にどのような権限を委任したのかを、事前に設定し関係者に周知しておくことなどです。
資産寿命を伸ばすソリューションのキーワードは「事前設定」ではないでしょうか。事前に保険料を払いこみ将来の給付を確保する年金保険も1つの方法ですが、それ以外にも投資一任口座や信託といった金融サービスの活用も考えられます。これらのサービスにおいて予め資産の目的や権限の委任状を明示しておけば、詐欺被害の防止はもとより、本人が自分の従前の意思に反するような行動を取ってしまうことの未然防止にもつながります。
参考文献:「金融ジェロントロジー」東洋経済新報社