高齢化の進展で認知症患者が保有する金融資産が増え続けています。2030年度には今の1.5倍の215兆円に達し、家計金融資産全体の1割を超えることになります。
認知症になると資産活用の意思表示が難しくなり、本人の意思確認ができないと家族ですら預金を引き出せなくなります。金融機関の立場では家族による横領を防ぐために、本人のためでもお金は使えず、預金が凍結状態になってしまいます。
政府の高齢社会白書によると65歳以上の認知症患者数は15年に推計で約520万人。3年間で約50万人増えました。高齢化が進む30年には最大830万人に増え、総人口の7%を占めると予測されています。金融資産の「高齢化」はすでに進み、14年時点で全体の65%ほどを60歳以上の人が保有しています。日本の家計金融資産は30年度時点で2070兆円と推計されています。認知症高齢者の保有割合は17年度の7.8%から10.4%に高まることになり、政府や金融機関はこうした資産が使われなくなることに危機感を強めています。
期待される制度の一つに成年後見制度があります。認知症などで判断能力が不十分で意思決定が困難な人の財産を守る仕組みで、後見人は、お金を本人の口座から出すことができます。ただ現時点の制度利用は約21万人と認知症高齢者の5%にも満たない状態です。理由は、核家族化が進んで後見人になる親族が近くにいないケースが多いようです。弁護士や司法書士など専門職を後見人にすることもできますが、最低で月2万~3万円の報酬を払い続けなければならないので、収入や資産が少ない高齢者には負担が大きくなります。親族や専門家以外の人が無報酬で担う市民後見人もいますが、家庭裁判所への報告などに加え、借金返済や家賃滞納への対応など想定外の仕事もふりかかり、負担は軽くありません。また、高齢者からは親族でも専門家でもない人は「信用できない」との声も多くあるようです。
株式などの運用が滞る問題も残ります。株式や不動産取引などの運用が停滞すれば、日本のリスクマネーは目減りし、成長のための投資原資がますます少なくなる可能性があります。後見人による有価証券運用は明確に禁止されているわけではありませんが、元本割れのリスクを伴うため、家庭裁判所は基本的には認めません。そうなると株は売却されて資金は預貯金に回ることになります。
認知症になる前に本人と家族で資産活用についてあらかじめ定めを結ぶ「家族信託」という仕組みもあります。しかし、本人も家族も認知症になることを前提に話し合うことには抵抗があり、まだ利用率は低い状況です。みずほ総合研究所では、認知症高齢者が持つ株式などの有価証券は、35年に全体の15%に達すると推計しています。高齢者の資産が塩漬けのままでは、金融収益を逃すだけでなく、資産の滞留で日本経済にも負の影響をもたらしかねません。生前贈与の活用など、長寿に伴う金融資産の保護や活性化はこれからの大きな課題となります。