ここ数年,健康経営という言葉が浸透するようになりました。健康経営とは、従業員や従業員を取り巻く人々の健康が企業および社会に不可欠な資本であることを認識し、従業員への健康情報の提供や健康投資を促すしくみを構築することで、生産性の低下を防ぎ、医療費を抑制して企業の収益性向上を目ざす取り組みのことです。
経済産業省は、厚生労働省や経済界・医療関係団体・自治体のリーダーから構成される「日本健康会議」と連携し、2016年度から「健康経営優良法人認定制度」を開始しました。この制度は,健康経営に取り組んでいる優良法人を認定し、健康経営の普及促進を図ることがねらいです。
この認定基準の一つにワーク・エンゲイジメントが含まれていることをご存知でしょうか?
ワーク・エンゲイジメントとは「仕事に誇りややりがいを感じている」(熱意)、「仕事に熱心に取り組んでいる」(没頭)、「仕事から活力を得ていきいきとしている」(活力)の3つがそろった状態であり、バーンアウト(燃え尽き)の対概念として位置づけられています。
バーンアウトした従業員は、疲弊し仕事への熱意が低下しているのに対して、ワーク・エンゲイジメントの高い従業員は、心身の健康が良好で、生産性も高いことが分かっています。
ワーク・エンゲイジメントには、似たような考え方があるので注意が必要です。その1つがワーカホリズムです。ワーカホリズムは、活動水準が高く、仕事に多くのエネルギーを注いでいる点で、ワーク・エンゲイジメントと共通しています。
ところが、ワーカホリックな人は「強迫的に」働くのに対して、エンゲイジメントの高い人は「楽しんで」働きます。つまり、ワーカホリズムは仕事への態度が否定的であるところが、ワーク・エンゲイジメントと異なっているのです。
両者の違いは、仕事に対する動機づけの違いによっても説明できます。ワーク・エンゲイジメントの高い人は、仕事が楽しく、仕事にやりがいを感じ、その仕事が重要だと思い、もっと仕事をしたい(I want to work)と考えていることから、仕事に多くのエネルギーを費やしています。
ところが、ワーカホリックな人は完璧主義で、仕事から離れると罪悪感を覚え、不安で落ち着きません。つまり、罪悪感や不安を避けるために、仕事をせざるをえない(I have to work)と考え、リラックスするために仕事に多くのエネルギーを費やしているのです。
言い換えると、ワーク・エンゲイジメントの高い人は「夢中型の努力」によって、ワーカホリックな人は「我慢型の努力」で特徴づけられていると言えます。
これまでの職場のメンタルヘルス対策は、心身の不調者が少ない職場を健康的な職場と考え、ストレスの少ない職場づくりに努力してきました。しかし、健康で「いきいき」と働くことを目指す上では十分ではありません。心身の健康度が高く(ストレスが低く)、かつ、活力の高い「活性化職場」に向けた対策が、これからのメンタルヘルス対策では大事になります。
このように、仕事への向き合い方や動機づけが異なることにより、心身の健康や生産性が異なる点は、興味深いところです。人を大切にする経営は、「活性化職場」を目指し、「夢中型の努力」で仕事に向き合う人を大切にする経営と言ってもよいかもしれません。
引用:ワーク・エンゲイジメント 労働調査会