新型コロナウイルスの影響は、不況知らずと言われていた医院経営に大きな影響を及ぼしています。4月の患者の受診数は、全体的に前年比で2割減り、特に病院に比べ診療所の落ち込みが顕著です。中でも、耳鼻咽喉科と小児科では4割前後も減少しました。その他眼科では3割超の減少、産婦人科や皮膚科では1割の減少でした。これは、医療体制が逼迫して一部で治療が延期されたほか、外出自粛で不要不急の受診を控えた結果と見られています。4月は全国の病院の3分の2が赤字になってしまい、後継者がいない医院などは閉院するところも出てきました。
政府も支援に乗り出し、減収を穴埋めするメニューを2度にわたる補正予算に盛り込み、オンライン診療など新しい診療手法などの規制緩和も進めています。
ただ、将来の日本の医療を確かにしてくためには、今回の新型コロナウイルスが引き起こした現象を踏まえ、医療業界が大きくマインドチェンジをする必要があると言われています。大事なのは病院そのものが変われるかどうかです。
病院を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。医療技術の進歩もあり、高齢者が病院にかかる頻度や日数は年々下がっています。さらに、人口が減っていけば患者は確実に少なくなります。コロナによる一時的な影響ほど強烈ではないにせよ、経営がある程度のペースで苦しくなるのはいずれ避けられない現実でもあります。
コロナ渦が医療にもたらしたもうひとつの劇的な変化は、患者が医師を選ぶという発想の転換がおきていることです。特例として初診にも解禁されたオンライン診療は患者の病院への移動が要らなくなるだけでなく、患者がどこの病院や診療所でも好きに選べる一面があります。L I N Eチャットなどでは、医師ごとの診療科はもちろん、自己紹介や得意な科目がアピールされ、患者は医院の場所に関係なく、医師の選択ができるようになっています。今まで長い待ち時間に象徴されるように、医療サービスは提供する側の理論で決まる傾向にありました。しかし、オンライン診療の普及に誘発されて、主導権が消費者たる患者に移る可能性を秘めています。
なんとなく医師や病院に委ねてきた診療データも、今後は患者がスマホ等で持ち歩く時代が近づいています。三井住友銀行は「情報銀行」という新しいサービスを準備中です。情報銀行では、様々な個人データを集約・統合し、個人のデータをどの組織にどのように提供するか、しないのか、を自身で選択できるようになります。その医院にしかなかった過去の医療データは、最新の健康診断結果などと結合され、患者が選ぶ医療機関で最適な治療へ有効に活用ができるようになるわけです。
確実に言えるのは、病院を取り巻く環境はこれからも大きな変化が押し寄せてくるということです。そして、変化に追いつく努力をしない病院や診療所は残念ながら患者に選ばれなくなります。利用者から選ばれるために必要とされるサービスの内容と質を磨く努力が、一般の企業も病院も求められています。経営を磨くことが、これからますます必要です。