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家族信託のススメ 〜今だからできること〜

高齢化が進む日本では、認知症の話題が年々注目されています。現在、認知症の症状が出ている高齢者は7人に1人と言われており、年齢別で見ると85歳以上では44%、90歳以上では64%にもなるといわれています。女性に限定すると70%を超えてきますので、人生100年時代で認知症になることは、誰でも覚悟をしておかないといけません。このような中、金融業界では高齢期における資産の運用・管理について考えられるようになりました。これは“金融ジェロントロジー(老年学)”とも呼ばれ、金融庁はじめ注目が高まっています。平均寿命が延びたため高齢期においても資産運用を続けながら取り崩していくことが提唱され始め、一方で認知能力が低下する高齢者の資産管理をどうするべきか、高齢者に対する金融サービスはどうあるべきか、といったことの研究が進められています。このように、資産の効率的な取り崩し方や、認知症に至る前の段階での資産承継といったことに、備えていくことが必要になってきたのです。
今回はその有効な手段の一つ、「家族信託」について述べたいと思います。家族信託は、認知症になっても高齢者の資産を生活の中で有効に使うための術です。認知症になると、定期預金や株・投資信託・保険などの金融資産の現金化や、自宅や賃貸用不動産の売却といったことが原則できなくなります。資産を有効活用するための、別の方法として成年後見制度の活用がありますが、利用にはいくつかの不安があります。
成年後見制度の後見人は申し立てにより家庭裁判所で決められ、弁護士など家族以外の専門家が選ばれることが多いようです。また、成年後見の目的は、認知症などになった本人の財産の保護なので、本人の財産が減る可能性のあることは制限され、家族の要望が必ずしも通るわけではありません。例えば、賃貸不動産の経営で収益性を改善するためのリフォーム支出やそれに伴う借り入れなどが、認められずできない場合もあります。
また、費用についても柔軟さに欠けています。後見人の費用は毎月数万円かかるケースが多いですが、一度始めたら本人が認知症から回復するか死亡するまでやめることができず、後見人への報酬が継続して発生してしまいます。
そんな背景もあり、最近急速に関心が高まっているのが“家族信託”という仕組みです。財産を信頼できる家族に託して、自分の代わりに管理をしてもらいます。きちんと契約書を交わして、通常は公証役場で公正証書にします。家族信託は目的を自由に設定できるため、契約書で「親(委託者)が安心して老後を暮らせる」ということを目的にした場合、それに合うことなら財産を使うことができます。具体的な手続きは、家族信託に詳しい弁護士や司法書士などに相談することから始まります。そして何を目的にするか、どの財産を信託するかを決めて、信託契約書に具体的に記入していきます。全部の財産を信託せずに必要なだけの財産を信託することもでき、後から追加することもできます。家族信託の費用は、専門家への相談料や公正証書の費用などがかかりますが、成年後見制度で払い続ける費用に比べると、総額は通常家族信託の方が安いとされています。
家族信託には色々とメリットもありますが、一番大事なことは認知症が始まってからは利用ができないということです。家族信託は当事者同士に契約できる意思能力があることが前提になります。ですから、今のうちに契約書の作成をすることをオススメします。