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私的で準備する年金は、確定拠出が主流に ~加入者の運用リテラシーが課題

個人が自ら運用する確定拠出年金の加入者が増えています。
2021 年3 月末時点の加入者は延べ約941 万人となり、企業が
運用する確定給付年金を初めて上回りました。掛け金への税制
優遇をテコに個人型・企業型と裾野を広げ、年金の運用先は加
入者個人が選ぶことになります。個人の運用力が老後の安心を
左右する時代に入りましたが、運用商品は定期預金がなお多く、
投資(資産形成) への理解は道半ばです。
信託協会などによると、確定給付企業年金の加入者は3 月末時
点で1 年前に比べ7 万人減の933 万人でした。一方、確定拠
出年金は1 年で61 万人増えています。これは、会社員をはじ
め20 ~ 60 歳未満の15% が入っている計算で、21 年度内にも加
入者1000 万人が視野に入りました。
確定拠出年金は、投資信託や預金などから個人で運用商品を
選びます。掛け金を企業・個人で出す2 種類があり、自営業
者の場合、限度額は月6 万8000 円です。また原則、積立金
を60 歳になるまで引き出すことができない一方、掛け金や運用
益などが非課税になります。
この税制上の優遇措置が全体の増加要因になっています。
確定拠出年金は米国の制度を手本に01 年から始まりました。
それまで大企業で多かった確定給付型の場合、一定の利回りを
従業員に約束して運用し、目標に届かなければ企業が穴埋めを
します。低金利が続く中、企業の財務・会計上の負担の重さを嫌っ
て企業年金改革を進めた結果、給付型から拠出型に移行する
企業が増えてきました。利回りを企業が約束する給付型は、従
業員の老後まで会社が一定の責任を持つ終身雇用の考え方を補
完する意味合いもありました。しかし働き方が変わるにつれて、
年金制度も柔軟さが求められ、勤め先が変わっても持ち運びでき
る確定拠出年金に資金が向かう流れが強まっています。
老後の生活を支えるのは本来公的年金の役割ですが、少子高
齢化で将来の先細りは避けられません。所得代替率(現役会社
員の手取りに対する高齢夫婦世帯の年金額の割合) は19 年度
で61.7%。およそ30 年後に50% 程度まで下がっていく見通しで、
公的年金を補う私的年金の重要性が高まっています。
加入者が増えている確定拠出年金ですが、課題も多くあります。
ひとつは運用商品が元本確保型に偏っている点です。掛け金を
企業が拠出する場合でも、定期預金と保険が半分以上を占めま
す。超低金利が長引く中、利息収入は期待できませんが、元
本確保が安心と思い老後資金の運用を放置しています。
米国では、初期の設定で投資信託を設定しやすい仕組みを取り
入れて投資を促しました。日本でも18 年施行の改正法で、元
本確保型を入れる義務をなくしましたが、米国ほど踏み込めてい
ません。投信運用で生じる損失リスクに慎重な声があるためです。
もうひとつの課題は拠出限度額です。米国では最大で年5 万
8000 ドル(約640 万円) 利用ができますが、日本ではその十分
の一しか拠出できません。
これらの課題を改善し、より柔軟な仕組みが期待されます。
制度を所管する厚生労働省は使い勝手を高める改善策を練って
おり、22 年以降に確定給付と併用する場合には合わせて月5 万
5000 円まで拠出できるようにします。
個人型のiDeCo (イデコ) でも、確定給付型に入る会社員であ
れば月1 万2000 円の上限を2 万円に上げる方向ですが、米国
との差は以前大きいままです。
とは言え、私的年金のベースにしっかりと活用するべきです。