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先進医療から公的医療へ ~粒子線がん治療は保険適用拡大

がんの治療で先進医療技術として指定されている治療が多い陽
子線治療と重粒子線治療。これらの粒子線治療で、4月から国
の健康保険を使えるがんがとして、肝臓や膵臓、大腸がんなど、
これまでより患者が多いがんが対象となりました。
粒子線は放射線の一種で、最も軽い水素の原子核を加速する
陽子線と、水素の12 倍の重さの炭素の原子核を使う重粒子線
の2種類があります。粒子線が当たると体内の物質がイオンにな
り、生じた電子ががん細胞のDNA を傷つけて攻撃するのが原理
です。
今回、肝臓、膵臓、肝臓内部にある胆管、手術後に再発した
大腸がんの4種類が重粒子線と陽子線の両方の治療で保険適用
になったほか、子宮頸部腺がんが重粒子線治療で対象になりま
した。臨床試験で一定の効果が確認されたのが要因です。ただ、
新たに対象となったがんは、手術で切除できない患者が対象で、
大きさや再発かどうかなどの条件が付くものもあります。
今回保険の対象になったがんは、今後患者は費用負担を抑え
て治療ができるようになります。国の保険に加え、高額療養費制
度を使えば高年収の現役世代でも毎月の医療費を30 万円以内
に抑えられることができます。
粒子線治療の主な利点は、比較的短時間の治療と副作用の少
なさです。1回の治療時間は15~30 分程度で、そのうち実際に
粒子線を当てるのは1~3分程度です。1日に1回、週に4~5回
照射するのが一般的で、がんの種類によって合計の照射回数は
変わります。
例えば肺がんを重粒子線で治療する場合は1回から十数回、前
立腺がんを陽子線で治療する場合には30 回程度照射することが
多いようです。同じ種類のがんなら重粒子線の方が当てる回数が
少ない傾向にあります。
副作用も軽めです。放射線治療で一般的なX 線は体に当てると
表面近くが一番強く、体の奥で弱くなる傾向があります。奥深く
のがんを叩くために照射すると、通り道にある正常な臓器や組織
も傷つけやすくなります。
一方で粒子線は特定の深さで強さがピークになります。ピークを
がんに合わせると、表面に近い正常な組織などを守りながらがん
を叩くことができます。特に重粒子線は直進し体内で広がりませ
ん。
一番の課題は、粒子線治療へのアクセスです。2022 年4月1
日現在、日本には重粒子線の治療が受けられるがQST 病院(千
葉市) や兵庫県立粒子線医療センター(兵庫県) など7箇所と、
陽子線治療が受けられる名古屋市陽子線治療センター(名古屋)
や静岡県立静岡がんセンター(静岡県) など全部で24 ヶ所あり
ます。必ずしも多くの患者が利用できるわけではなく、また、一
般のがん治療現場で粒子線治療に対する理解が普及しているわ
けではないようです。
優れた粒子線治療ですが、血液がんや、体中に移転した多数
のがんには使えず、胃や大腸など部位によっては穴が開くため使
いにくさがあるようです。がんの治療法が変わる中、今後は様々
な治療法と組合せなどが考案されています。