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「社会的インパクト投資」が社会保障を変える 〜役立ちたい思いも収益も〜

少子高齢化や貧困、病気、障害。世の中には多くの課題があります。通常は行政が社会保障制度などを通して対応しますが、膨大な費用を投じても成果が見えにくいことが多くあります。そこで民間が投資し斬新なアイデアを呼び込み、成果を出して利益も得ようとする動きが生まれています。いわゆる「社会的インパクト投資」と言われるものです。今後は社会保障に対する行政と民間の役割分担が変わるかもしれません。

社会への好影響と収益の両立を目指す「社会的インパクト投資」は、13年の主要8カ国(G8)首脳会議で話題となり、世界的に注目されました。社会の持続可能性を高める事業は長期成長も見込め、投資先としても魅力があると考えます。英国の関係団体は同投資の市場規模が近いうちに、3070億ドルに達すると見られています。

日本においても17年に、新生銀行グループの新生企業投資が、社会への好影響と収益の両立を目指す「社会的インパクト投資」を始めました。まずは第一号案件として子育て関連事業に投資するファンドを設立しました。投資先は東京の託児スペース併設型オフィスを展開するママスクエアという会社です。保育園に入れない待機児童の解消が難しく、母親が簡単に働けないという課題に、ワーキングスペース+親子Caféスペース(カフェ+キッズスペース)を提供し、仕事場を母親の近くに持っていく発想で順調に事業を拡大しています。同投資の特徴は、その成果を測ることにもあります。この会社で働く人の増加は、世帯の所得増、ひいては出生率向上にもつながると期待されています。

東京八王子市は市民へのがん検診に力を入れています。どうしたら受診率を引き上げられるかという課題をかかえていました。そこで昨年から人工知能(AI)を使った新手法を用いるという民間企業に受診勧奨事業を委託しました。一人ひとりの過去の検診データなどを分析し「あなたはがんと関連があるこんなリスクがある」といった個別の通知が送られ、がん検診を促すものです。

事業費は「社会的インパクト投資」で集めることにしました。市は成果に応じ費用を事業者に支払います。検診率向上など成果が出れば投資家には利回りが発生し、逆だと元本を損なうことになります。投資家はリスクを負いますが、税金は効率的に使え、がんの早期発見で医療費節減も期待ができます。

こうした投資は病気や介護の重症化予防、まちづくりなど様々な分野で注目されています。神戸市では糖尿病の重症化を防ぐための個人の生活習慣病改善事業にこの投資を活用し始めました。今はまだ試行段階のようですが、将来世の中のお金がごく普通にこのような投資に回されるようになれば、その分社会保障制度の負担が減るかもしれません。

社会的インパクト投資に関わる人は比較的若く、活気があるのも特徴です。役所にはない発想も次々と生まれつつあります。自分たちの投じたお金が社会役立ち、なおかつ利益にもなる。そんな好循環が始まろうとしています。