健康と病気の間の状態を示す「未病」を最新技術であぶり出し、健康維持に役立てようとする試みが産学官で進んでいます。指の血流から自律神経の状態を分析して隠れた体の不調を見つけ出したり、健康診断のビッグデータ解析から3年後の健康リスクを予測したりするなど様々な手法が登場しています。早期に生活習慣病を改善できれば医療費の抑制できる可能性があるとの期待も高まっています。
15センチ四方の測定機器で、指先から脈拍を読み取り脈波と心電波をグラフ化。さらに緊張時に活発になる交感神経とリラックス時に活発になる副交感神経のバランスを見ることで、疲労度を「見える化」しました。
従来、「疲労度」は問診による主観的評価が中心でしたが、実証データを基に自律神経機能に対して基準値を設定。測定値が基準値より劣っていたり、交感神経優位の「過緊張」を示していたりすると、本人に自覚がなくても疲労やストレスを溜め込んでいる可能性があります。疲労科学研究所では、「自律神経は体の状態を如実に表し、定期的に測定すれば、過労死などの予兆を見つけ出すことが可能になる」と期待しています。未来のリスクを見える化し、早期に対応することで予防につながると考えています。
「自分で守る健康社会」を将来のビジョンとして掲げる東京大の革新的イノベーション創出プログラム(COI)は神奈川県と連携して、2018年度中に「メタボリスク指標」を策定するとしています。20万人規模の健康診断データを統計解析し、予測モデルを構築。一人ひとりの健康データと突き合わせて、3年後のメタボとなる可能性を見出します。
従来の検診で正常とされた人のうち、半数近くが「隠れたメタボリスク群」といわれ、こうした自覚のない人にメタボからつながる病気のリスクを認識してもらい、健康増進に向けた行動を促します。
健康と病気の間の状態である未病段階で保健指導などを効果的にできれば、医療費抑制に寄与する可能性があります。神奈川県では、健康な人と、メタボに該当する人との間には年間医療費で9万円近い差があると指摘しています。隠れていた予備軍を浮かび上がらせて、早期に対応すれば医療費は抑えられると考えています。
先月に横浜市で開かれた未病の産業化を目指す研究会の会合には、製薬や家電ほか、建設、通信、金融など多種多様な約100団体が集まりました。未病段階の人々に健康増進につながるサービスを提供できれば、危機的な状況に陥っている医療保険財政の支えになるだけでなく、新たなサービスを生み出すと産業界でも注目されています。
国の社会保障制度が限界に近づく中、今後は健康への選択肢として医療・医薬領域に加え、ビッグデータなどを活用した人工知能(AI)などの活用が期待されています。さらに、働き方や健康経営などをキーワードに、自らが健康に関心を持つ社会の構築が進んでいます。健康管理を日々意識し、一人ひとりの生活の質向上につながる取り組みが始まっています。