「食事の量が減っています」介護施設で働く職員のタブレットに通知が届きます。その後、入居者の体調や食事内容を確認したところ、抜歯後に食事量と体重が低下していることがわかりました。入居者に歯科医の検診を受けてもらい、柔らかい食事に変えたことで体調が回復したとのことです。
SOMPOホールディングスは米データ解析大手のパランティア・テクノロジーズと組んで、介護現場のデジタル化に取り組んでいます。パラマウントベッドのセンサー付きベッドを使い、入居者の心拍数や呼吸数、睡眠時間、ベッドから起き上がった回数などを計測します。また、この他に職員が食事や体温などを入力し、入居者一人当たり約600のデータを一元管理しています。
解析にはパランティアのシステムを使用し、一見関係のなさそうな複数のデータ同士を分析することで相関関係を見つけ出します。呼吸の乱れから肺炎を発症したり、食事の摂取量や体温の変化から体調を崩したり、といった1週間後の体調変化の予測を行い、医師と相談するなど事前に備えることで発症を遅らせたり、症状を抑えたりすることが可能です。
さらにこのシステムは、職員の負担も軽減します。従来は入居者のカルテや介護内容、職員の業務などを5つのシステムで管理をしていました。各システムにアクセスする手間があったほか、労務管理は監督者の経験やノウハウに依存する場合が多く、職員の負担にばらつきがありました。新システムは職員の作業状況や全体の仕事量を可視化するため、二度手間の仕事がなくなり、生産性は2倍に高まるといいます。介護は入居者一人当たりのサービスの手厚さが施設選びの決め手になりますが、深刻な人手不足が続く中、デジタルトランスフォーメーション(DX)で少ない人数でも高品質なサービスを提供できることを目指しています。
高齢者データは介護だけではなく、SOMPOホールディングス全体で活用しています。「半年後に自分自身でトイレに行けなくなる」など中長期の体調の変化を予測するシステムも開発しており、ビックデータ解析で事故や病気の予防につなげる世界が身近になりそうです。
例えば生命保険に加入する20〜30代を対象に、健康診断データと組み合わせて将来病気に罹患するリスクを予測するサービスなどを想定し、病気の予防や早期治療を促す事業モデルを模索しています。経済産業省によると、予防を含むヘルスケア産業の国内市場規模は25年に約33兆円と16年に比べて3割増える見通しです。
SOMPOホールディングスは、人口減少で国内保険市場は大きな成長が見込めない中、高齢化を逆手に取り、自社の介護データとパランティアの解析技術を組み合わせて、データビジネスを育成する考えです。「事故や介護、ヘルスケアのデータを合わせたプラットフォーマーとして社会に貢献したい」と同社の桜田社長は意気込んでいます。
日本は世界に先駆けて高齢化社会を迎えています。課題先進国の日本にとってその解決こそが、将来の成長の源泉になり、世界への展開に繋がっていきます。