政府は人的資本経営を、「人材を『資本』として捉え、その
価値を最大限に引き出すことで、中長期的な企業価値向上につ
なげる経営のあり方」と説明しています。その中人材の価値を最
大限に引き出す考えとして、ウェルビーイングが注目されてきまし
た。ウェルビーイングは、身体的、精神的、社会的に満たされ
ている状態を言いますが、ウェルビーイングな状態が「持続的な」
幸せを維持し、その結果が企業価値を向上させるという考えです。
ウェルビーイングについて日本の第一人者である前野隆司教授
(慶應大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科) の書
籍をもとに解説していきたいと思います。米国の研究によると、
幸福度の高い社員は低い社員よりも創造性は3 倍、生産性は
31%高く、売上は37%多い一方、欠勤率は41%、離職率は
59%低く、業務上の事故は70%少ないという研究結果が得られ
ています。これらはほんの一例にすぎず、世界中で様々な研究
が行われ、幸せな社員は仕事ができ、休んだり辞めたりしにくい
ということが多様な視点から明らかにされています。
経済学者ロバート・フランクは、他人と比較できる財を「地位
財」、比較できない財を「非地位財」と名付けました。地位財
にはお金、モノ、地位などがあります。これらによる幸福感は長
続きしない傾向があると言われています。一方の非地位財は幸
福感が長続きする財です。こちらは精神的、身体的、社会的に
良好な状態(ウェルビーイング) が影響すると言われています。
前野教授のグループは、心的要因(精神的良好) の研究を重
ねてきた結果、幸せの4つの因子があると結論づけました。
第一因子は「やってみよう!因子(自己実現と成長の因子)」です。
やりがい、強み、成長などに関係します。第二因子は「ありがとう!
因子(つながりと感謝の因子)」です。感謝する人は幸せです。
また利他的で親切な人や多様な友人を持つ人は幸せです。第
三因子は「なんとかなる!因子(前向きと楽観の因子)」です。
ポジティブかつ楽観的で、細かいことを気にしすぎない人は幸せ
です。リスクを取って不確実なことにチャレンジしイノベーションを
起こそうとするマインドもこの因子に関連しています。第四因子は
「ありのままに! (独立と自分らしさの因子)」です。自分軸を持っ
て、人と比べすぎずに我が道を行く人は幸せです。これら4つの
因子を満たしている人が幸せといえます。
では、職場で社員が幸せに働くためにはどうずればいいのでしょ
うか。「やってみよう因子」を高めるためには、①理念の浸透、②
視野の拡大、③権限の移譲、④創造性の発揮が有効です。理
念を浸透させると一丸となります。視野を広げれば自分の仕事が
何につながっているかが分かり、権限を移譲されれば主体的に
働けることになるため、幸福度が高まります。単純な作業より創
造性を発揮する仕事の方が幸せです。「ありがとう因子」を高め
る方法にはコミュニケーションの向上があります。傾聴、尊重、
批判保留、素直に声を出す、を実践する対話は、自己開示を
促し、質の高いコミュニケーションを可能にします。職場の心理
的安全性も必要です。「なんとかなる因子」を高めるには、チャ
レンジすること、前向きな言葉を使うこと、心配しすぎなくてもい
いように準備万全にすることが大切です。「ありのまま因子」は個
性の発揮とほぼ同義です。自分の強みを磨き、自分らしく働くこ
とにより実現できます。いかがでしょう。取り組めそうでしょうか。