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医業承継の最近の動向 ~「目に見えない財産」の承継こそが大事~

医療業界にも高齢化の波が押し寄せています。厚生労働省の資
料による2018 年の統計では、医師総数311,963 人の中で60 歳以
上の人数が83,419 人と26.7%を占めています。2 年前の2016 年
から比べて60 歳代は6.8%、70 歳以上は13.0%増えており、他
の年代と比べても増加率は顕著になっています。少子高齢化の影
響により、今後もこの比率は上昇していくことが予想されています。
では、地域別の医師数を比較した場合はどうでしょうか。都道府県
別にみた医師施設に従事する人口10 万対医師数を見ると、徳島
県が329.5 人と最も多く、次いで京都府323.3 人、高知県316.9 人
となっています。一方最も少ないのは埼玉県が169.8 人、次いで茨
城県187.5 人、千葉県194.1人となっています。因みに愛知県は
212.9人と全国水準246.7人を下回る状況になっています。このように、
地域による医師数の差が、医療格差となる懸念も持たれています。
医療を繋ぐ医業承継について見ていきたいと思います。医療を
繋ぐためには、主に2つの選択肢があります。1つは子どもへバト
ンタッチする親子間承継です。もう一つは、第三者へ承継する
M&A です。いずれの選択肢にしても適切な専門家を交え、法
律上、行政上の問題がない体制を検討することが必要です。
ここでは、親子間承継について注意すべき点を見てみましょう。
子どもが医師免許を持っていなければ後継者にはなれませんし、
子どもが2人以上いる場合にはその中から後継者を選ぶ必要があり
ます。後継者が決まったら医療を継続するための財産を渡す必要
があります。後継者だけに財産が集中してしまうと、後々発生する
相続の時に問題が起こる可能性があります。特に他の親族に渡す
財産が少なく遺留分を侵害してしまうと「争族」になりかねません。
争族対策としては、生命保険を活用して死亡保険金を後継者が受
け取り、非後継者へ代償分割することで財産を分割する方法があり
ます。この注意点は保険金は民法上相続財産ではなく受取人固有
の財産となることです。そのため、非後継者を死亡保険金の受取
人にしてしまうと相続とは別となり、遺留分の解決にはなりません。
医療機関が個人事業主か医療法人かによっても課税関係は違っ
てきます。個人事業主の場合、課税関係は複雑になります。
院長が所有している土地に診療所を経営していれば、後継者に
土地、建物、医療機器などを譲渡するのか、贈与するのか、
相続するのかなど引継ぎ形態を考える必要があります。一方医療
法人の課税関係は比較的シンプルで、院長が所有している出資
持分を後継者に譲渡(相続)するだけで済みます。留意点としては、
相続の場合に医療法人の出資持分は相続財産になることです。
その出資持分について医療法人は配当ができないため、長年経
営をしていると利益剰余金が積み上がり、出資持分の評価額が驚
くほど高くなることがあります。この対策として、出資持分を考慮し
て後継者以外への分割計画を作ること、多額になる出資持分に
対する相続税の支払原資を準備しておくことなどが考えられます。
また、医業承継は物理的な資産だけではなく、これまで培って
きた患者やスタッフとのコミュニケーション力やチームワーク、治療
方針などの目に見えない財産があり、これこそ一番承継すべき大
切な要素です。その点を後継者が理解し、前院長から新院長へ
の引き継ぎ期間も十分に取り、患者が違和感なく安心して通院で
きる体制を作ることが医業承継成功のポイントになるかと思います。


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