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ネット診療の国際比較 ~デジタル医療は日本で進むか?~

21 年6 月末時点で遠隔診療の登録を届け出ている医療機関
は、開業医を中心に1 万6872 件と全体の約15%です。コロナ
の1回目の緊急事態宣言下であった20 年4 月に、国は特例で
初診から遠隔診療をできるようにしました。これをきっかけに登録
機関は一気に増えましたが、その後頭打ちになっています。
実は、この時に登録した機関の多くはシステム導入をしておらず、
コロナ感染を恐れて通院しなくなった患者をつなぎ留めようと始め
た電話診療が中心でした。電話では慢性疾患の高齢者らに思う
ように受診してもらえず、ブームは早々に一巡しました。現在では
システムでやり取りするデータ量を見る限り、ネット診療はほとんど
普及していないようです。
ネット診療が普及していない原因の一つに、診療報酬の低さが
挙げられます。経営上は診療項目によって1回あたり数百円から
2000 円近い減収になります。今年の8 月、入院病床が足りず自
宅療養を強いられるコロナ患者が増えた時は、コロナに限って遠
隔診療の報酬が2 倍に引き上げられましたが、医療機関の登録
は伸びなかったようです。
ネット診療に必要な電子カルテやパソコン、ウェブカメラなどの
導入は、多くの自治体で上限数十万円の補助金が出ます。シス
テムの導入だけなら負担は多くありませんが、いざネット診療を始
めるとなると診療時間を調整したり、担当スタッフを雇ったり、経
営上の検討事項が増えます。そもそも、開業医の多くは広域で
競争原理が働くネット診療の普及を望んでいません。経営への影
響を懸念する先生方も多く、厚労省のオンライン診療の検討会
ではコロナ下でも「怪しいオンライン診療を防ぐ必要がある」「医
療の質の低下につながっていないか」といった慎重な意見が幅を
利かせたままでした。
一方、コロナ下で急成長した世界のネット診療市場は更に膨ら
む勢いです。調査会社によると19 年の490 億㌦から、23 年に
は1940 億㌦、2030 年には4590 億㌦まで成長すると予測してい
ます。米国では21 年3 月のネット診療の比率が61%と1 年前の
約3 倍になりました。英国は国民医療制度(N H S) のかかりつ
け医ではコロナ前に2割であったネット診療患者が7割に増えたとさ
れています。米国は民間保険が中心で広大な国土に医師不足
の地域も多い、といった事情があります。英国のN H S の対面
診療は予約して数日から数週間待たされることが多く、ネット診療
なら早いといった事情もあります。継続的に治療をしていく糖尿病、
高血圧などの生活習慣病では、対面よりもネットの方が患者の状
態が改善したとの報告もあります。
ネット診療は医療テクノロジーの進展につながります。政府支援
下で対面からネットに切り替えが進む米国や英国、中国では大掛
かりな医療データベースを基にして新薬や医療機器、診療技術
を開発するプロジェクトが動いています。日本は対面診療の電子
カルテですら仕様が統一されておらず、データ共有化でも遅れを
とっています。ネット診療をこれまでの医療の効率化という視点だ
けで見ていると、先進的な医療インフラを構築する機会を失いか
ねません。

 


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