最近、人的資本経営という言葉を目にする機会が多くなりました。
今も昔も企業は従業員を大切にしてきたはずですが、
従来の経営とどこが違うのでしょうか。
経済産業省は人的資本経営を
「人材を資本として捉え、その価値を最大限に引き出すことで、
中長期的な企業価値向上につなげる経営のあり方」
と定義しています。
従来、人材は企業の経営資源(ヒト、モノ、カネ、情報) の
一つとして認識され、人的資源として消費・管理され、コストと
しての人件費がかかる存在でした。
そのため利益を上げるためには人件費をなるべく抑えようという発想になります。
一方、人的資本は従業員のスキルや能力、知識などを企業の
資本と認識し、人材に投資することで価値が高まると考えます。
すなわち人材育成にかかるお金はコストではなく、
企業価値向上にとって不可欠な投資とみなされます。
人的資本経営は人材を資源ではなく、
投資により価値を引き上げる資本と捉える点がポイントです。
ではなぜ、この人的資本経営が注目されるようになったのでしょうか。
要因の一つに働き手の確保が難しくなっている点があります。
少子高齢化により働き手の絶対数が減り、女性や高齢者、外国人など
様々な人材を採用する必要があります。
こうした人々を雇用するには時短勤務やシフト勤務、
リモートワークなど多様な働き方の提示が必要になります。
様々な人材にそれぞれ適した働き方で活躍してもらう
人的資本経営が求められます。
人材を確保するのに柔軟な働き方を用意し、
働く人から選ばれる必要があります。
デジタルなど技術の加速度的な進化も要因の一つです。
モノからサービスに価値が移り、企業が生む付加価値の源泉の中心が
モノを作るための物的資源や設備などから、サービスを生むアイ
デアやビジネスモデルなどが重要になりました。
画期的なアイデアを生み、デジタルなどの新技術を使いこなす人材は
企業経営において人的資本としての重要性が増していて、
質の高い人材の確保や育成が企業に求められています。
人的資本経営を進める上で欠かせないのが、
エンゲージメントの向上とリスキリングの取り組みです。
エンゲージメントは仕事へのポジティブで充実した心理状態を示す
「ワーク・エンゲージメント」や企業への愛着を示す「従業員エンゲージメント」
などがあり、重要な指標です。
従業員のエンゲージメントが高い企業は低い企業と比べて離職率が低く、
業績が良好などの傾向があると言われています。
「リスキリング」は学び直しとも呼ばれ、
企業がDX (デジタルトランスフォーメーション) 時代を生き抜くため、
従業員に新たな業務・職種に必要なスキルや知識を習得させる文脈で
使われることが多いです。
最近では、長生き時代に必要なお金や健康に関する知識も必要と言われています。
教育訓練等の人的資本投資が国際的に低水準な日本にとって、
岸田政権が掲げる「新しい資本主義」では、
個人のリスキリング支援として5年間で1兆円の施策パッケージの実施を
表明しています。
今後の企業は、働く人に選ばれる、自社で働く人の質を高める、
人的資本経営の実践と社内外への発信が求められています。